ご案内

ところが、料理はまだまだとどまらない。 極めつけに大きなケーキとコーヒーが運ばれる。
日本男児たるもの、残すのもしゃくだ。 それに、貧乏根性も手伝い、ついついパクつく。

レストランを出るころには、美味しいものを食べたという満足感よりも、ゲップが出そうな苦痛にさいなまれる。 くつにフルコースでなくても、美味しいものを適当に味わったほうが良かったのではないか。
こんな反省をしながら、レストランをあとにする。 さて、人間ドックにもコースが設定されている。
オードブルだけみたいな半日コースもあれば、二泊も三泊もするようなフルコースもある。 その中間として、一泊二日の標準的なコースもではないか。
もちろん、ときと場合によってはフルコースが必要である。 が、皆が皆、いつもフルコースばかり食べていては、肥満者だらけになってしまうに違いない。
前立腺ガンなど、まずは発病しないだろう若い人に前立腺ガンの検査をおこなったって、むだすでに病院で糖尿病と指摘されている人が、念のためにと人間ドックでブドウ糖負荷試験を受けるのは愚の骨頂だ。 症状もないのに、胃のレントゲン写真を半年に一回、決まって受けるのもいかがだろう。
大事なことは、バランスではないかと思う。 フルコースの人間ドックを利用するのもおおいに結構だ。
だが、毎年毎年、あるいは半年に必ず一回、定期的に受けることもないだろう。 ふだんの健康管理にめいめいが注意さえしておけば、何も定期的に受けずともよいと思う。
一般的な健診や最小限の人間ドックを定期的に受けておき、時宜を見はからってフルコースの人間ドックを受ければこと足りる。 そして、むしろ何だかからだに不調を感じたり、不安をおぼえたときには踊踏せずに病院にかかることの方が重要だと思う。
フルコースのフランス料理ばかり食べることはなかろう。 白飯にメザシと梅干しで、健康的な生活を送れるはずだ。

胃バリウム検査は毎年は必要ない三○歳の男性会社員が著者の担当する外来診察室にやってきた。 人間ドックで受けた胃バリウム検査で異常が疑われたという。
それを確認してもらうのが、来院の目的だった。 そこで、胃カメラ検査(最近では胃内視鏡検査という呼び方の方が多い)を早速に受けてもらった。
すると、胃の粘膜が赤くただれた胃炎であった。 胃の粘膜を修復する薬を飲んでもらったところ、ほどなくして胃炎は良くなった。
聞けば、その会社員は半年に一度、胃の検査を受けているという。 しかも、決まって胃パリウム検査だそうだ。
ふだんから胃が弱く、しょっちゅう消化不良を起こしたり、痛みを訴えているのがその原因らしい。 でも、単なる胃炎なら、ストレスを避けて規則正しい食生活を心がけ、胃薬を飲みさえすれば十分である。

胃バリウム造影検査を半年に一度受けたからといって胃炎が治るわけでもない。 胃の検査には、大きく分けて二種類ある。
一つは白いバリウムという造影剤を飲み、レントゲンで胃の形を映し出すものだ。 うつは、内視鏡という潜望鏡のような器具を胃の中に差し入れ、直に胃を医者の目で確認この二つの検査法には、それぞれ一長一短がある。
胃バリウム検査は、歴史が長く、一般の人にもなじみが深い。 食べ物ではないといっても、少しガマンをしてさえもらえば、さほど抵抗なく飲んでもらえるだろう。
最近ではバリウムそのものにも飲みやすい工夫すら凝らされている。 だが、欠陥としては、胃を直接に確認できるわけではなく、〃胃の影〃を見ていることがあげられる。
だが、異常が疑われれば、確認のために胃内視鏡検査を受けなくてはならないこともしばしばだ。 また、胃バリウム検査の欠点として、放射線を浴びることもあげられる。
一回に浴びる放射線量はたいしたことはなく、それで健康を害することはない。 しかし、それも程度の問題だ。
頻回に放射線を浴びれば、放射線による影響も無視するわけにはいかないのだ。 ことに若い人の場合には、余分な放射能など浴びない方がよい。
胃内視鏡検査は、何といっても、胃の粘膜を直接に観察できる長所がある。 胃炎や胃潰傷はもとより、早期胃ガンだって慣れた医者なら簡単に診断できる。
もともとはちっぽけなカメラを胃の中に入れて撮影することから始まった。 だから胃カメラ検査とよばれたものだ。
これは病変を直接に見ながら撮影できるものでなく、盲目的に写真を撮っるほどに検査技術は高い。 とはいえ、影を見ている以上、一○○パーセント胃の病気を診断できるわけではない。

その後はファイバースコープが開発され、鮮明な画像として観察できるようになった。 そして最近では電子内視鏡が開発され、テレビ画面として映し出すことも可能となった。
実際、患者も検査を受けながら自分の胃の中をテレビ画面を通して覗くことができる。 胃内視鏡検査の欠点としては、あたかも硬いヘビをゴクンと飲み込むかのように、長い内視鏡さて、人間ドックでの胃検査を受ける最大の目的は、早期胃ガンを発見することだ。
胃炎は放置しておいても治るので心配するにはおよばない。 胃潰傷だと、たいていは胃の痛みや消化不良などの自覚症状があるので、患者自らが医者を訪ねて相談することがほとんどだ。
ガンがこわいといっても、すぐに人間の命を奪うわけではない。 TVキャスターの逸見政孝さんがかかったようなスキルスという特殊なガンを除けば、通常ならガンはゆっくりと発育する。
だから、半年に一度もきちんきちんと胃バリウム検査を受けることはない。 万が一にも胃ガンであったとしても、一年に一度の検査でチェックしてもらっておけば十分だろう。
それでも心配な人には、バリウム検査を毎度毎度受けるよりは、胃内視鏡検査をすすめたい。 毎年胃の検査を受けるとしたら、バリウム検査は一年に一度とし、その間は胃内視鏡検査を受けたらよいだろう。
あるいは、胃内視鏡検査だけでも十分だ。 慣れた医者が担当すれば、ほとんど苦痛はなく、安全に実行されるからだ。
そうした診断の限界をさしおいたとしても、そもそもすべてのガンが健診や人間ドックで早期に発見できるわけではない。 たとえば、よく話題になるのが肺ガンの集団検診である。
肺ガンの集団検診では胸のレントゲン検査がおこなわれる。 これだと、肺に広がったガンは十分に発見できる。

しかし、気管に発生したガンは、診断がむずかしい。 少なくとも、痕を採って調べたり、CT検査(コンピュータ断層撮影検査の略である)を受けなければ無理だ。
だから肺ガンの集団検診は無意味との指摘があるくらいだ。 卵巣ガンや、騨臓ガンなど、からだの奥深くにある臓器の早期ガンともなると、なおさら発見見できない。
健診も人間ドックも、症状が出ない早期のうちに病気を発見することに大きな意義がある。 ことに、ガンのように命取りになる病気を未然に発見してもらいたい。
だが、人間ドックでいかに精密な検査を受けたとしても、最終的に判断するのは人間の目だ。 いかにトレーニングを積んだ医者とはいえ、見落としがないともいい切れない。
また、検査による診断能力そのものにだって限界はある。 第三章で紹介することになるが、健診や人間ドックで病気を見落とされた例はいくらだってある。

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